■研究1:喫茶の伝播と変遷2-3

喫茶の伝播と変遷:アナトリア・バルカン地域を事例として(2009)
A Comparative Study of Tea and Coffee Cultures: Anatolia and the Balkans as Examples(2009)


第二章:喫茶の現状把握

2.国別喫茶事情

世界各地には多様な喫茶の習慣や文化が存在するが、実例を一覧としてまとめておく。
以下、実地調査、『嗜好品の文化人類学』『世界嗜好品百科』参考

【中近東・アフリカ】

トルコ 紅茶(チャイ)をよく飲み、砂糖は紅茶に入れて溶かして飲む。チャイハネという喫茶店があり、チャイダンルックでお湯が沸かされる。トルコ東部では砂糖をかじりながらチャイを飲む場合もある。
コーヒーも飲まれ、トルコ・コーヒーという煮出すアラブ式であるが、現在ではインスタントコーヒーも多く飲まれる。
エジプト コーヒー(カフワ)も紅茶(シャイー)も飲まれるが、消費杯数を見ると茶が圧倒的に多い。「農民は茶を飲むのが普通で、コーヒーは市場へ行った際などに店で飲む飲物であるとされる。」(*21)茶にミルクは入れず、砂糖を大量に入れる。エジプト北西部のオアシスでは緑茶に砂糖とハッカ入れる。3杯単位で飲む作法がある。コーヒーは煮だすアラブ式である。
イラン 紅茶(チャイ)をよく飲み、砂糖をかじりながら飲むことが多い。ペルシア湾沿岸ではミルクを入れる地域もあるよう。2杯を単位とし、皿にあけて飲む(そのまま飲む場合のほうが多いと思われる)。3回お替りしたら辞去するという作法もある。
チャイハネで飲むことができ、サモワールでお湯が沸かされている。
19世紀末に紅茶は「ペルシアの国民飲料」といわれていた。「かつてイランでコーヒーといえばトルコ・コーヒーが主流であった。紅茶に比べると手間がかかり、費用も高くつく。そのため、街や家庭からコーヒーは減り、紅茶となっていく。近年インスタントコーヒーの登場によりコーヒーも家庭や喫茶店でも飲まれるようになった。生活に欠かせないお茶は1979年のイスラーム革命後しばらくは補助金を付け、格安で配給。砂糖は現在でも配給制」(*22)となっている。
モロッコ 茶もコーヒーもどちらもよく飲まれている。
茶はアラブ語からの「シャイー」もしくは、現地語で「アッツアイ」と呼ばれる。中国の青茶系と思われる茶葉を使用し、ポットの中にたくさんの砂糖を入れ(ハーブも入れている場合もある)、ハーブがたくさん入ったたグラスに注ぐ。

コーヒーはアラブ式もしくは、エスプレッソ・マシーンを利用している。
茶器はグラスや把手つきの陶器のカップなど様々。

エチオピア 「エチオピアでも紅茶は飲む。コーヒーは家で飲むもの、外では紅茶を飲むものと考える人が多い。客人に、コーヒーではなく紅茶を出したりするのは、ちょっと気取った感じになる。砂糖は欠かせない。紅茶の香りにもこだわりがあり、コロリマの種子やショウガやシナモンを加える。」(*23)
朝は葉のコーヒーだが、昼や夜は焙煎したコーヒー豆を使うことも多い。
コーヒー・セレモニーという、もてなしの作法があり、喫茶文化といえる。
イエメン カートという嗜好品が主流。庶民の日常飲物は紅茶(シャヒー)で、たっぷりと砂糖を入れて飲む。庶民はラマダン以外にはほとんどコーヒーを飲まないが、コーヒー豆の外皮を乾燥させ、煎じてショウガの粉と砂糖を溶かす「ギジル」という飲物はも庶民の日常的な飲物として愛飲されている。

【バルカン】

ギリシア ギリシア・コーヒー。「カフェニオ」などで飲むことができる。
トルコ・コーヒーと同じく挽いたコーヒー豆を煮出して上澄みを飲む。アラブ式ともいう。インスタントコーヒーも多く消費され、夏にはフラッペとして好まれる。
ブルガリア 茶類はあまり飲まない。ハーブティーも日常的ではない。
「カファ」と呼ぶトルコ・コーヒーのアラブ式を飲んでいる。
ルーマニア 都心部ではコーヒーが飲まれるようになってきたが、「ネスカフェ」が多い。
田舎ではハーブを摘んできて、ティーといって飲んでいる。
旧ユーゴスラビア諸国 20世紀前半には大麦や植物の実を炒った代用コーヒーに香り付けのコーヒーを少し加えていた。セルボ・クロアティア語では「トゥルスカ・カファ」という。(*24)クロアチアではコーヒーを「トルコの飲み物」、セルビアでは茶は「薬」とも言う。

【南アジア】

インド チャイハナ(caikhana)で紅茶(チャイ)を飲む。場所によっては香辛料を入れる。インド北部ではマサラチャイとはミルクで煮出し、砂糖をたっぷりと入れ、シナモンやジンジャーなどのスパイスをいれたものである。甘くするほど上等とされる。
 イスラームの人々の場合「お茶でも」といって客を呼び入れるのが礼儀とされる。特に遊牧民の社会では重要な作法。
 紅茶に卵の黄身を入れたのがムガルティであり、風邪などのときに子供に飲ませる。茶器は素焼きのかわらけ。終わるとすぐに割ってしまう。唾液への不浄感によるもの。地方では商品としてのミルクは粉ミルクしかない。そのため、田舎の庶民はミルクの入手が難しいので、紅茶でも「ラルチャー」つまり赤いお茶を飲む。あるいはレブチャーというレモンを絞ったお茶を飲む。また、しょうがやカルダモン、胡椒など香辛料の入った「マサラチャー」を飲む。いずれも砂糖のたっぷり入った甘いお茶である。また、南インドではコーヒーが一般的。『アーユル・ヴェーダ』との関連性もある。
ネパール インドとほぼ変わらない。チベット系住民はバター茶。路上のチャイ屋にはインスタントコーヒーをチャイに入れて出すところもある。
パキスタン チャイ(チャーエ)が愛好されている。チャイハナ(ペルシア語起源)があり情報交換の場ともなっている。急須=チャイナック、茶碗=ピアリという。このお茶の習慣は「イギリス植民地時代に広がったもの。100%輸入に頼っている。地域差があり中国と国境を接する北部山岳地帯には、砕いた岩塩をお茶の中に溶かし、塩茶にして飲む習慣がある。またアフガニスタンに隣接する北西辺境州に行くと緑茶(カフワ)を飲む習慣がある。緑茶に砂糖。チャイ好きという点では、パキスタンはインドと共通するが、コーヒーはあまり定着していない。」

【南アメリカ】

パラグアイ・ブラジル Yerba Mate(学名:Ilex paraguariensis)の葉や小枝を乾燥させた“茶葉”にお湯や水を注いで飲んでいる。飲み方は幾通りもある。
「テレレ」は一握りのマテの粉に冷たい水を注いで細い管ですする方法で、「マテ・ドーセ」はパラグアイの女性の好む甘いマテ茶(*25)のことであり、ハーブや牛乳を加えたりもする。茶器にはボンビーリャという茶漉し付きストローや、聖木パロサントや牛の角の器など様々な独自の茶器がある。パラグアイでは焙煎しないもの、ブラジルでは焙煎したものが好まれる。

【著作権】
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【引用・参考】
(*21)石毛直道 2009, p.253 (HRAF Files, MR13 Fellahin,3 Ayrout:90)
(*22)民族学振興会 2009, p.54
(*23)高田公理 2004, p.125
(*24)秋野晃司、小幡壮 2000, p.132
(*25)レヴィ・ストロース 2001, p.290